ストーンタワーガード(STG)とステンレス天板

madsaunistが結成されたのは、当時発売されて間もないmorzhのINTENTストーブを改造するアイディアを3人で語り合う中で共鳴していったのがきっかけである。INTENTストーブはもともとアウトドアシーンでライトにサウナを楽しむために開発されたもので、現在我々が提唱しているような使い方を想定して開発されたものではない。でも、そこにストーブがあればたくさんロウリュをしたくなるし、サウナをより快適にしたいと思うのが人間の性。まだ発売されて間もないmorzhをどう改造いたらいいか語り合った日々が懐かしい。そんなmadsaunistの結成秘話でもあるストーンタワーガード(STG)とステンレス天板は思い入れのある商品といっても過言ではない。

最初にINTENTストーブの問題点として3人共通で挙げたのが、天板が凸凹にゆがむこと。軽量化を図って薄いステンレスを使っているが故、サウナストーンという荷重がかかった状態で熱せられて冷やされるという極度のストレスに耐えられる構造になっていない。シンプルに天板を間に挟めばいいんじゃない?と実験をすると、サウナストーンが全然温まらない…ステンレスは熱伝導の悪い金属であるため、ステンレスにステンレスの追加天板を置くとサウナストーンが十分温まらなかった。一旦、凹凸問題は未解決事案となった。

私達はキャンプも大好きで薪ストーブに関する知識はそれなりにあった。最初にINTENTストーブの写真を見た時に広い天板に並べられたサウナストーンとそこに水を掛けるのを見て違和感を覚えた。薪ストーブは燃焼室が熱くなり、煙突で外気と同一空間にある中で温度差ができることで気圧差が生まれ、ドラフトが生まれる。更にそのドラフト効果によりストーブへの空気の取り入れが加速し燃焼が促される。燃焼室を温めることが大切なのに、そこに水をジャブジャブかける行為が違和感の原因だった。そしてサウナについて調べれば調べるほどサウナストーンをいかに温めて効率のよく輻射熱を発生させるかが肝だと理解した私達は、サウナストーンは薪ストーブの最も熱くなる煙突基部と煙突に接するように設置すべきだと考えた。

では、安全に煙突の周りにサウナストーンを積むにはどうしたらいいか、メトスのサウナに入りながらikiストーブを見て、これだ!と思った。ikiストーブに高く積まれた石とそれを囲う金網。電気ストーブの発熱体はエレメント、薪ストーブの発熱体は燃焼室および煙突なのだから、これをテントサウナで実現すればいいと考え、いろいろなアイディアを構想した。

最初に考えたのはBBQの金網。金網をつなぎ合わせても、つなぎ合わせた部分で強度が出ない…つなぎ合わせるのにも針金がいる…一か所に荷重が傾けば接合部で歪みが生じる、歪みを支えるのは金属の針金。安全とは言えないなと思ったし、何より嵩張ると思った。

安全性を考えて次に考えたのが、化学器具などを洗浄するために使うステンレス製のカゴ。カゴの底を切り抜いたら、しっかりとした金網になると思った。安全性はクリアしていたけど、やはり嵩張る。ストーブ周辺で使うものだから、ストーブ内に収納できるようなものが理想的だった。機能的で、安全で、嵩張らないもの。テントサウナは思った以上に荷物が多いから、嵩張らないものというコンセプトはとても大切な要素だった。

様々なものを考えて見つけたのが、ステンレス線を折りこむ技術。折りこんで網は作れそうだったけど、1周回ってエンドレス接続ができるか確認したらできると。これだ!と思い、適切なサイズを考えて、ストーンタワーガード(STG)が誕生。madsaunistは理論的に考えた考察を製品に落とし込むため、試作回数が極端に少ないのが強みだと思っている。STGも試作ゼロ回で誕生し、今も当時のままの姿で販売をしている。丸めてストーブ内に収納できて、普段はふにゃふにゃなのに、互いに離れようと力が加わると1.8mmのステンレス線同士が強度を生む。1.8mmのステンレス針金を買ってきて、ニッパーで切ってみてほしい。普通のニッパーでは手も足も出ないだろう。鎖を切断するような厳ついカッターが必要なはずだ。形を変えられてどんなストーブにも適合でき、かつ十分な強度があるというのがSTGの最も優れたポイントだと思っている。そして可変性と強度という一見相対する機能を持ち合わせ、更に円周に対して多少の伸張性があることも、他のガードに比べて優れている点だと思っている。前述した通り、煙突にサウナストーンを密着させ、サウナストーン同士も極力密着させることがサウナストーンへの熱伝導を改善するため、わずかな伸張性がサウナストーンをより密に積むのに効果を発揮する。この点を見落としている人が結構多いが、サウナストーンの積みやすさを感じてもらえるだろう。

STGが誕生して、煙突基部に20kgもサウナストーンを積みながら、天板耐えられるのかな…と設計図を見ていたところ、INTENTストーブは煙突基部手前に燃焼室とスパークアレスターを分けるステンレスの仕切り板の存在に気付き、煙突基部は強度が強いことに閃いてしまった。そして、madsaunistの結成由来となった未解決事案が同時に解決された。ステンレス天板の再登場である。

もともと天板が没になったのは、サウナストーンを十分に温められなかったから。でもSTGで煙突からサウナストーンを熱することができるようになれば、天板面からの熱伝導が悪くなってもストーンを十分に熱することができるはず。そして強度の強い煙突基部であれば、点荷重を天板で面荷重に変えることで20kgの重さにも十分耐えられると思った。

天板に煙突の穴加工を作るとき、少しでもサウナストーンを熱せられるように小孔を開けて、熱気でサウナストーンを暖められるように工夫した。ストーブは何度も買い替えるものではないから、一つのストーブを長期間愛用してほしいという思いから、人が載っても曲がらない強度を持つ4mm厚のステンレス天板を使うことにした。(1枚2kg弱あるのでケガに注意)2つを合わせて使ってみたらストーブは凹まなくなったし、ロウリュの水もストーブにほとんどかからなくなって期待通りのセッティングが実現した。購入から約2年が経過しているがストーブはほとんど歪んでいない。歪んだストーブを使い続けていると歪んだ部分に亀裂が入り、一酸化炭素などの有毒ガスがテント内に充満する可能性があるため、すでに歪んでしまったストーブでも利用を推奨している。この天板があったからこそ、今年リリースしたストーンタワーガード2段重ねのdouble deckerセッティング(サウナストーン積載量30-40kg程)も可能であったのは言うまでもない。

どんどんテントサウナを快適にしていきたい一心で様々なセッティングを考案してきたmadasaunistですが、これからもより楽しいサウナライフが送れるようなギアの開発、セッティングの考案、サウナのプロデュースを進めていきたいと思います。0から1、10、100を創り上げる作業は思った以上に大変ですが、誰にも真似できない製品を考案、提案していきたいと思います。2022年も多くのサウナーの皆様に弊レーベルのプロダクトをご愛用いただき、また多くのご相談・ご依頼をいただきました。微力ながら皆さまのお力になることができ大変光栄です。来年は長らく暖めてきたギアのリリースが行えると思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。