サウナとヴィムホフメソッドの親和性

Wim Hof Method

熱と冷、そして呼吸がつくる自律神経のリズム

文:YsK(madsaunist/医師・Wim Hof Method 公認インストラクター)

サウナは、「熱」「冷」「休息」というシンプルな構造の中で自律神経が大きく揺れ動く体験装置である。
この揺れのメカニズムを理解するほど、サウナ体験は偶然の快感から「構造として理解できる体験」へと変わっていく。

madsaunist が以前から強い関心を寄せているのが、サウナ × Wim Hof Method(ヴィムホフメソッド)という組み合わせである。

2024年に私自身が渡豪し WHM の公認インストラクター資格を取得したことで、医学的な視点から、この二つがどこで響き合うのかをより正確に言語化できるようになった。そして、今年から
『Breath Work with madsaunist』~ととのいうを引き寄せる呼吸法~ 
と題して2年の歳月をかけて体系化した呼吸法習得プログラムを開始した。

本稿では、呼吸法そのものの手順には踏み込まず、サウナと WHM が共有する「自律神経の構造」に焦点を当てて解説していく。

Wim Hof Method とは何か

Wim Hof Method(WHM)は、特徴的な呼吸のリズム、寒冷刺激、マインドセット(集中・意思)の三要素から構成される自己調整法であり、オランダ人のWim Hof氏が体系化した。彼は現在も世界中でこの呼吸法を広げるべく活動しており、これまでに寒冷に関わる数々の記録を樹立し、ギネス記録を18回更新し『アイスマン』と呼称されている。世界中には何十万人もの実践者がおり、医学的エビデンスの樹立に向けて世界中の医療機関とも共同研究を行っている。

呼吸について WHM に特徴的なのは、「呼吸の強さやテンポを大きく変える段階」と「静かな呼吸に移る段階」が交互に生じる構造である。
この「呼吸の振れ幅」によって自律神経の反応に変化が生まれ、身体の緊張と回復の切り替わりが体感しやすくなる。

ただし、この呼吸法は専門的な指導環境を前提としており、自己流でまねると失神や事故につながる可能性があるため、具体的な手順には本稿では一切触れない。

WHM の呼吸が象徴しているのは、「呼吸は自律神経の反応に影響を与え得る」という構造であり、そこがサウナとの親和性に直結する。

寒冷刺激(Cold Exposure)については、急激な交感神経反応を引き起こし、その後の回復時に副交感神経が立ち上がる。この「緊張と回復の波」は、サウナがもたらす波ときわめて近い。

サウナがもたらす生理反応

サウナ室の熱負荷は、心拍数増加、深部体温上昇、ストレスホルモン分泌の促進といった生理反応を生み、これは中等度の運動に匹敵する。

水風呂に入ると、温度差によって血管が急激に収縮し、交感神経が鋭く立ち上がる。

外気浴に入ると徐々に副交感神経が優位になり、心拍数もゆっくり低下していく。

つまりサウナは、外部環境を用いて「熱 → 冷 → 回復」という自律神経の典型的な「山と谷」を体験できる場である。

サウナと WHM が響き合う理由

1. 「呼吸の強弱」とサウナルーティンが同じ構造をもつ

WHM の呼吸には、呼吸のテンポが上がっていく段階(交感神経が反応しやすい段階)と、静かな呼吸に戻る段階(副交感神経が働きやすい段階)が交互に現れる。

これはサウナにおける、熱で心拍が上がり、水風呂で交感神経がピークに達し、外気浴で落ち着いていくという流れと重なる。

サウナは外側からの刺激、WHM は呼吸という内側の操作と違いはあるが、自律神経の振れ幅を体験するという構造そのものが共通している。

そのためサウナ愛好家が WHM に強い親近感を覚えるのは自然なことだといえる。

2. 「熱と冷」という恒常性を揺らす刺激を扱う

サウナは熱、WHM は冷を中心に扱うが、どちらも身体の恒常性(ホメオスタシス)を揺さぶる強い環境ストレスである。

これらの刺激に対し、身体は血管収縮と拡張、代謝上昇、体温調節、内分泌系の活性化といった反応を示す。

方向が逆であっても、熱と冷という別軸のストレスが同じ生理学的領域(ストレス応答)に作用する点が類似している。

3. 「自律神経がどの刺激にどう反応するか」が分かる

サウナと WHM の共通点は、「自律神経の反応パターンを体験として理解できる」という点にある。

サウナでは、熱で心拍が上がり、冷刺激で交感神経が一気に反応し、外気浴で副交感神経が立ち上がるという順序が体感できる。

WHM では、呼吸のリズム変化で交感神経が反応し、静かな呼吸に移る段階で副交感神経が働くという、内部操作によるプロセスが理解できる。

ここで重要なのは、「自律神経を鍛える」という話ではないという点である。
身体が「どの刺激で、どのタイミングで、どう反応が切り替わるのか」を知るプロセスである。

サウナは外部刺激、WHM は内部刺激。
経路は違っても、どちらも自律神経の「反応の順番」を明確に体感できる点で一致している。

結語

サウナと Wim Hof Method は、文化的背景も技法も異なるように見える。
しかしその体験の奥には、自律神経が環境や呼吸によってどう変化し、どう戻るのかという生理学的構造が共通して存在する。

サウナを理解するほど WHM の理解が深まり、WHM を知るほどサウナ体験の内部構造も鮮明になる。

この重なり合いこそが、madsaunist が「サウナ × WHM」を探求し続ける理由である。

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